3月9日

今週は暖かい日が続くそうだ。天気予報をこんなに信頼するようになったのは、いつ頃だろう。昔、天気予報は単なる予報だった。当たらなくても目安になればよかった。きっと予報専門の人工衛星のおかげなのだろう。

80年以上生きてきて世界はずいぶん変わった。私が子どもの頃にはなかったものが、ごく普通に手元にある。このスマホもその一つ。携帯電話は肩からかけるショルダー式だった。大きくて重くて、どうやって電話をかけたんだったか?

今でも街中でみどり色の公衆電話を見かける。電話ボックスもある。電話機に挿入するカードのことをテレフォンカードと言った。プリペイドカードだった。遠距離の恋人たちは、目の前で音を立てて少なくなるカードにドキドキした。

携帯電話が普及して今の恋人たちは、待ち合わせに遅れたくらいでケンカすることもなくなったのだろう。夫婦だってきっと喧嘩したり、それが元で別れたりすることは、少なくなったのだろうか。どうなんだろう?

あまりにも普通になって、それが昔からあったのかどうかすら、分からないものに今の私たちは守られている。その分、危険に囲まれているとも言えるのかもしれない。

私の住んでいるアパートのドアは、暗証番号で開ける。オートロックというらしい。認知症に脅かされる昨今、暗証番号を忘れたら、私は自分の部屋に入ることもできなくなると、恐れたりする。まあそんな時になったら、鍵を忘れるようになるだろうから、文明の利器を恐れる必要もない。この頃、全てのことに自信がない。加齢という掴み所のない、そして予防の余地もないものが、私たちの人生にいつの間にか勢力を拡大している。

目に見えない敵。誰にでも公平に訪れる障害。生まれる時も去る時も、人にとってこの世は公平なのかもしれない。心地よい言葉だ。公平。平等。ありがたい。