3月12日

震災の映像で一日が過ぎてひと夜明けたら、もうどこの隅っこにも震災の影はなくなった。こういう、一つどころにとどまらない人間の本質のお陰で、人間はどんな悲惨な苦しみからも、立ち上がって歩き続けてきたのだろう。でも、私は喪失の傷を30年、引きずって生きてきた。

今思うともったいない時間だったかなと思うこともあるけれど、一つの愛に30年注いだ記憶は、私が抱えていく宝物だったと思う。愛おしい。そんな自分が愛おしい。顧みられることのない時間なのに、私はその時間が一番、正直な時間だったと思う。そんな私の混乱し狂った時間に、直ちゃんは寄り添ってくれた。何も聞かずに。

直ちゃんが懸命にリハビリを始めた様子が映像で送られてきた。脳外科の世界が目覚ましく進んでいることを思う。医学は神に勝ったのか?神の全支配は、人の死の前で示される。どんなに医学が進歩しても、死というものだけは屈服させられない。医学はその人の運命に力を貸すのだと思う。その人の運命は、多分命を授かったその瞬間から、きっと決められている。その運命を助けるのが医学かも知れない。そう考えると、心が安らぐ。この命が、さらに愛おしく感じられる。

記憶の冷凍という言葉を聞いた。いつの日か、あの記憶を解凍してあげる日が来るかも知れない。来ないのかもしれない。どちらでもいいと、今は思う。